作成日：2025/09/29
「副業・兼業」の急増に対応する就業規則の見直し術
副業・兼業の広がりと企業の就業規則に関する課題（全国的な傾向を踏まえて）
近年、政府の働き方改革の推進や、コロナ禍による価値観の変化、テレワークの普及といった背景から、「副業・兼業」を希望する労働者が急増しています。企業としても優秀な人材の流出を防ぐため、副業を許可するケースが増えてきました。しかしその一方で、企業側には新たなリスクや課題が生じており、「就業規則」の見直しが急務となっています。
特に中小企業においては、労務管理体制や制度設計が十分でないケースが多く、対応の遅れがトラブルに直結することも少なくありません。例えば、副業先でのトラブルが本業に波及したり、労働時間の管理が曖昧なことで過重労働や健康障害のリスクが高まるといった問題が顕在化しています。
私は社会保険労務士として20年以上にわたり、400社以上、延べ4万件以上の労務相談に対応してきました。その中で特に痛感しているのが、「中小企業は労務トラブルに対する耐性や解決ノウハウが不足している」という現実です。だからこそ、単なる規則の見直しではなく、経営者が本質的に「何のために副業・兼業を認めるのか」「どのようなルールであれば社員も会社も安心できるのか」を明確にし、それを制度として落とし込む必要があります。
就業規則の見直しは一見ハードルが高く感じられるかもしれませんが、実は企業にとって「組織のあり方」を見直す好機でもあります。副業・兼業を許容することで、社員のスキルや視野が広がり、それが本業に還元されるケースも増えています。こうしたポジティブな側面を生かすためにも、法的リスクを回避しつつ、柔軟で実効性のある就業規則の整備が求められています。
本記事では、全国の中小企業が直面する課題を踏まえつつ、「副業・兼業」対応のための就業規則見直しのポイントや注意点を、社会保険労務士の視点からわかりやすく解説していきます。
副業・兼業の広がりに伴う就業規則見直しの重要ポイント
社会保険労務士の視点から見た法的リスクと実務対応
副業・兼業を認める企業が増加する中、社会保険労務士として特に留意していただきたいのが「法的リスクの明確化と実務対応のバランス」です。就業規則を見直す際に重要なのは、単に「副業をOKにするかどうか」を決めることではなく、具体的にどのような副業を、どの条件で許可するかを明文化し、会社と社員の双方が安心できるルールを整備することです。
まず第一に注意すべきは「労働時間管理」です。副業先との通算で労働時間が週40時間を超えると、企業側には割増賃金の支払い義務が生じる可能性があります。たとえ副業が業務委託契約であっても、実態が労働者性を持つ場合、企業に責任が及ぶリスクがあります。これを避けるためには、社員に対して副業先との契約形態や勤務時間の申告を義務づけるなど、事前の情報収集体制を整えることが求められます。
また、競業避止義務の観点からもリスクがあります。副業先が自社の顧客と競合していたり、自社の機密情報を扱う可能性がある場合、それが不正競争防止法違反につながることもあります。就業規則には「競業禁止」「機密保持」の条項を明確に記載し、違反時の処分内容についてもあらかじめ周知しておくことが不可欠です。
次に、労災補償の問題も見逃せません。例えば副業中に発生した事故が労災認定される場合、その影響が本業の企業側に及ぶケースも想定されます。副業によって健康被害が蓄積し、本業中に表面化した場合には、「業務起因性」が問われることもあります。このようなトラブルを回避するため、健康状態の確認や定期的な面談を通じて社員のコンディションを把握する体制も必要です。
私はこれまで、さまざまな企業の労務トラブルをサポートしてきましたが、特に中小企業では「就業規則を整備していなかったために、社員とのトラブルが泥沼化した」という事例を何度も見てきました。副業・兼業を許可するのであれば、ルールの未整備が逆に会社を守れなくなる危険性があるのです。
社会保険労務士としての私の役割は、単に法令を伝えるだけでなく、「どうすればその会社らしく、安全に副業・兼業を取り入れられるか」を一緒に考えることだと思っています。画一的なルールを押しつけるのではなく、業種や規模、経営者の方針に応じた「オーダーメイド型の就業規則改定」が、これからの時代に求められる実務対応です。
就業規則の見直し時に注意すべきポイント
社会保険労務士がよく受ける質問とその対応策
副業・兼業をめぐる就業規則の見直しにおいて、私が社会保険労務士として最も多く寄せられるのが、「どこまで副業を認めればよいのか」という企業からの根本的な問いです。この問いに対しては、まず“認めるか・認めないか”という二元論ではなく、“どのような条件であれば認められるか”という観点から整理するようにお伝えしています。
たとえば多い質問の一つに、「アルバイトなどを副業として認めた場合、労働時間の通算が必要になるのか？」というものがあります。この問いに対しては、原則として通算の対象となるのは“複数の労働契約が存在する場合”です。つまり、副業先が業務委託やフリーランス的な働き方であれば通算不要となる可能性が高いですが、労働契約である以上は企業側も法定労働時間の範囲内で管理責任があるという点を丁寧に説明します。
また、「副業を通じて得た知識や経験が本業に活きるのではないか？」という経営者の前向きな質問に対しては、「その通りです」と背中を押しつつ、リスク管理として“報告義務”と“内容の審査基準”を設けることを推奨しています。副業を一律に禁止するのではなく、会社としてどこまでを許容し、どこからを制限するのかをあらかじめ就業規則に落とし込んでおくことで、社員との認識のズレを防ぐことができます。
さらに、「社員が副業先で健康を害した場合、会社としての責任は？」という懸念も多く聞かれます。これは実務上グレーゾーンの部分もありますが、本業の勤務に支障が出るようであれば、企業側には安全配慮義務違反として責任を問われる可能性もあります。そのため、就業規則には“副業によって本業の勤務に悪影響を及ぼさないこと”を明記し、健康管理に関する会社の姿勢を示しておくことが重要です。
また、最近では「副業でSNSやYouTubeを活用する社員が増えていますが、企業としてどこまで関与すべきか？」というデジタル時代特有の質問も増えています。このようなケースでは、会社の信用毀損リスクや、機密情報の漏えいリスクをふまえ、“会社名や職務に関する情報発信は事前許可制”といったルール設定を助言しています。
私の経験から言えば、こうした質問に共通しているのは、「ルールが曖昧なままでは、後からトラブルになる」という点です。だからこそ、社会保険労務士として、企業と社員双方の立場に寄り添いながら、具体的かつ実効性のあるルール作りを支援することが、私の使命だと考えています。
就業規則見直しによる企業メリットとは
多様な働き方を支援する企業文化の形成
副業・兼業を許容するという就業規則の見直しは、単なる「制度変更」ではありません。それは、企業が社員一人ひとりの多様な働き方や価値観を受け入れる姿勢を示す、企業文化の再定義とも言えます。こうした文化の転換には時間も手間もかかりますが、私は長年の現場経験から、「企業文化こそが組織を強くする土台」であると確信しています。
実際に、私がこれまで関わってきた中小企業の中でも、副業・兼業を柔軟に認め、社員の個性や強みを尊重する企業は、離職率が低く、社員のモチベーションも高い傾向にあります。企業文化とは就業規則の文面だけで作られるものではなく、経営者や管理職の“姿勢”と“発信”が全体に浸透して初めて機能します。
「うちの会社は副業OKにしたけど、実際に申請すると嫌な顔をされる」といった声が出てくるようでは、制度があっても意味がありません。大切なのは、“制度と意識の整合性”を取ることです。副業を前向きにとらえ、「社員が成長することは、会社の成長にもつながる」という価値観を、企業全体で共有することが求められます。
そのためには、まず経営層自らが副業に対する考え方を明確にし、それを社内に発信していくことが第一歩です。さらに、中間管理職に対しても副業に関する基本的な知識やリスクの理解を促し、「部下の多様な働き方を支援する役割」を担ってもらうことが文化形成には不可欠です。
私は、単にルールをつくるだけではなく、「どうすれば企業文化として定着するか」という観点からのサポートを大切にしています。たとえば、就業規則の改定と同時に、全社員を対象とした説明会を実施したり、Q&A形式で副業に関する懸念を事前に解消する研修を導入した企業もあります。こうした一連の取り組みが、制度の浸透を促し、社員の信頼につながっていくのです。
副業・兼業を認めることは、従来の「会社中心」の働き方から、「個人のキャリアや生き方を尊重する組織」への転換を意味します。このような価値観が根付いた企業は、変化の激しい時代においても柔軟に対応でき、結果的に社員からも選ばれる組織となっていくでしょう。
私自身、「労務トラブルの防止」だけでなく、「人が活きる組織づくり」を支援する社労士として、今後もこうした企業文化の形成を全力で後押ししていきたいと考えています。
まとめと結論（企業が今すぐ取り組むべき対応）
副業・兼業という働き方が急速に一般化するなかで、企業がこの変化にどう対応するかは、今後の人材確保・定着にも大きな影響を及ぼします。かつては「会社一本で勤め上げる」のが主流だった時代も、今では「複数の仕事で自分らしい働き方を実現する」ことが珍しくありません。こうした時代の変化に企業として取り残されないためにも、今すぐ取り組むべきは、就業規則を中心とした社内ルールの明確化です。
副業・兼業を認めるか否かは企業の自由ですが、「認めない理由が説明できない」「認めるルールが不十分」といった状態は、逆にトラブルを引き寄せてしまいます。特に中小企業の場合、人材ひとりひとりの役割が大きいため、モチベーションの低下や退職リスクは企業経営に直結します。ですから、単にリスクを恐れるのではなく、「どうすれば社員も会社も安心して副業と向き合えるか」を軸に対応を考えるべきです。
私の立場から今すぐ実行できるステップを挙げるとすれば、まず第一に、現行の就業規則を見直し、「副業・兼業に関する項目」がそもそも存在しているか、内容が曖昧になっていないかをチェックすることです。多くの企業では、この部分が数年前の雛形のまま放置されており、現状に即していないことが多々あります。
次に、社内で副業を希望する社員に向けてヒアリングを行い、実態やニーズを把握することも重要です。そのうえで、自社に適した副業ルール（申請制・承認制・競業禁止・情報漏えい対策など）を設計し、できれば社会保険労務士などの専門家と連携しながら、法的リスクと実務運用の両面からバランスの取れた規則づくりを進めていきましょう。
副業解禁は、単なる制度変更にとどまらず、組織文化のアップデートにもつながる機会です。社員が「自分のキャリアを主体的に考えられる環境」は、企業にとっても大きな財産となります。実際に、柔軟な制度を取り入れた企業の中には、「副業で得たスキルが本業にも活きている」「社員の意欲が以前より高まった」というポジティブな変化を実感しているケースもあります。
企業の未来は、社員一人ひとりの成長と挑戦によって形づくられます。だからこそ、経営者の皆さまには、ぜひこのタイミングで就業規則を見直し、時代に合った柔軟で実効性のある労務管理体制を整えていただきたいと思います。そして、その過程で困ったときには、ぜひ私のような社会保険労務士にご相談ください。一緒に“笑顔あふれる職場づくり”を実現していきましょう。
社会保険労務士に相談する理由とお問い合わせ情報（全国対応可能）
副業・兼業に対応する就業規則の見直しは、単なる文書の修正作業ではありません。企業ごとの業種や規模、社員構成、経営方針によって取るべき対応は千差万別であり、それらを的確に整理し、実効性のあるルールへと落とし込むためには、専門的な視点が欠かせません。だからこそ、こうしたタイミングでこそ社会保険労務士への相談を強くおすすめします。
特に私は、20年以上にわたり中小企業の現場で40,000件を超える労務相談を受けてきた実績を持ち、「会社のルールづくり」と「現場での実行性」をつなぐ支援に力を入れてきました。労務トラブルのリスクだけでなく、企業文化や社員の働きがい、定着率の改善といった観点からも、実効性ある制度設計を提案できるのが、社会保険労務士ならではの価値です。
また、私は労務管理のアドバイスだけでなく、企業研修やチームビルディングにも精通しており、制度改定と併せて「社内への浸透支援」も得意としています。副業・兼業制度を導入したものの、社員や管理職がその趣旨を理解していない、というような“制度の空回り”を防ぐためのサポートも一貫して対応可能です。
さらに、私の事務所「高山社労士事務所」は、宮城県仙台市を拠点としながら、オンライン面談や全国出張にも対応しており、北海道から沖縄まで幅広く企業様の支援実績があります。特に最近では、Zoom等を活用した規則見直しコンサルティングが全国的に増えており、地域を問わずスピーディーな対応が可能です。
副業・兼業への対応をはじめ、就業規則の見直し、労務リスクの予防、社員が定着する仕組みづくりなど、どんな小さなご相談でも構いません。まずは一度、お気軽にお問い合わせください。初回相談では貴社の状況や課題を丁寧にヒアリングし、今後の方向性を明確にするお手伝いをさせていただきます。
メール：t-sh-j@takayama-office.jp
営業時間：平日9:00〜18:00（土日祝応相談）
✦ 社労士に相談することは「制度づくり」にとどまらず、企業と従業員が安心して働ける職場づくりの第一歩です。
