作成日:2026/01/20
定年制度・再雇用規定を見直すべきタイミングと書き方
定年後の雇用を巡る制度設計が企業経営のカギに
少子高齢化が進み、労働力人口の確保が喫緊の課題となるなか、「定年制度」と「再雇用規定」の見直しは、企業経営において避けては通れないテーマとなっています。とくに2021年施行の改正高年齢者雇用安定法(いわゆる“70歳就業法”)以降、多くの企業が制度の再設計を迫られていますが、その一方で「何から手をつければいいか分からない」「とりあえず延長しておいた」という場当たり的な対応にとどまっている企業も少なくありません。
しかし、定年後の雇用制度は、従業員の意欲や生産性、社内の人件費構造、若手社員のキャリアパスなど、組織全体に影響を与える重要な制度です。社会保険労務士として多くの企業を支援する中で実感するのは、「制度を整えて終わり」ではなく、「実際に現場で運用できる規定」へと落とし込む必要性です。制度の中身と実態にズレがあると、再雇用後のトラブルや処遇への不満、人事評価の形骸化などを招く可能性があります。
では、見直しに適したタイミングとはいつか?それは「法改正があったとき」「現行制度に基づく再雇用者が増えてきたとき」「定年後社員の処遇や役割が曖昧になっていると感じたとき」――この3つがポイントになります。とくに中小企業では、「再雇用の実態が個別対応になっており、社内に統一ルールがない」「就業規則に再雇用の記載はあるが、内容が古い」といったケースも多く、形式と運用のズレが深刻化しやすい傾向にあります。
再雇用規定の見直しにあたっては、まず「対象年齢」「雇用形態」「賃金・勤務日数」「業務内容」「更新基準」などの要素を明確にし、就業規則または付属規程に具体的に落とし込む必要があります。加えて、本人への説明フローや、更新判断の基準を文書で残す仕組みを整えることも、将来的なトラブル防止に繋がります。
本記事では、定年・再雇用制度の見直しに適したタイミング、就業規則上の整備ポイント、そして実際の企業が導入して成果を上げた制度設計の事例を交えながら、実務的に役立つ視点を解説していきます。「高年齢者雇用」が義務から戦略へと変化するいま、制度の再設計は待ったなしです。
定年制度・再雇用制度をめぐる法改正と実務の現状
社会保険労務士の視点で見る「70歳就業法」以降の変化
2021年に施行された改正高年齢者雇用安定法、いわゆる「70歳就業法」により、企業には70歳までの就業機会を確保する努力義務が課されるようになりました。これにより、これまでの「65歳までの雇用確保義務」から一歩進んだ形となり、多くの企業が定年後の雇用制度の見直しを迫られることとなりました。
社会保険労務士の立場から見ると、この法改正は単なる“延長義務の拡大”ではなく、「高年齢者をどう活かすか」という人材活用戦略そのものの転換を求められていると感じます。従来のように、65歳で一律に雇用契約を終了させる運用や、定年後は形式的な再雇用で同じ業務を続けさせるだけという仕組みでは、企業としての持続的成長が難しくなっているのです。
実務上、70歳就業法は努力義務であり罰則規定は存在しないものの、企業の採用力・定着力・社内評価に大きな影響を及ぼす“社会的要請”となっています。特に中小企業においては、「優秀なベテランを戦力として長く活かす体制を整えているかどうか」が、採用競争における大きな差別化要因となりつつあります。
また、制度面では“選択肢の多様化”が求められるようになりました。すなわち、「70歳までの継続雇用制度の導入」「業務委託契約による継続就業」「社会貢献活動への従事支援」など、多様な選択肢の中から、自社の方針や人材層に合った仕組みを設計する必要があります。これまで以上に就業規則・再雇用規程の柔軟性と、個別運用における公平性が求められるようになっています。
さらに、企業が実態に合わせて制度をアップデートしないままでいると、現場での不満やトラブルも顕在化します。「再雇用後の仕事内容や待遇が曖昧」「更新基準が不明確で納得感がない」といった声が放置されると、高年齢社員との間に不信が生まれ、モチベーションの低下や人事訴訟のリスクすらあり得ます。
社会保険労務士として支援する際は、こうした現場の温度感を踏まえつつ、制度の形式だけでなく「実際に職場でどう機能させるか」を重視した設計を提案します。70歳就業法への対応は、法令順守を超えた“人事戦略”と捉えることが、今後の持続可能な組織づくりにおいて欠かせない視点です。
制度を見直すべき“3つのタイミング”とは
社労士が指摘する運用リスクと現場でのつまずき
定年後の再雇用制度は法令上の整備が進んだものの、実務の現場では多くの企業が“運用上のつまずき”に直面しています。制度はあっても、現場で機能していなければトラブルの温床となり、企業としての信頼や職場のモチベーションにも悪影響を及ぼしかねません。社会保険労務士として支援する中で顕著に見られるのは、「制度の形骸化」と「対応の属人化」による運用リスクです。
まず典型的なリスクは、「再雇用者の処遇や業務内容が曖昧なまま更新されている」ことです。再雇用契約の際に明確な職務定義や評価基準がないと、再雇用者本人も「どこまで責任を負うべきか」「何を求められているのか」が不明確となり、管理職や若手社員との摩擦が起きやすくなります。とくに賃金が大幅に下がっている場合、その理由や根拠を説明しないまま契約を継続すると、「不当な扱いだ」といった不満につながりかねません。
また、「更新基準が不透明で、恣意的に見える」こともトラブルの要因です。例えば、再雇用契約の更新について、事業主の一存で継続・打ち切りが決定されているように見えるケースでは、後から不服申し立てや労使紛争に発展するリスクがあります。社労士の立場からは、「客観的な評価基準とその説明責任の仕組み」を設けることが不可欠であると考えています。
さらに、就業規則や再雇用規定の整備が追いつかず、「実態とルールに齟齬がある」ケースも散見されます。制度上は65歳定年・70歳まで再雇用と記載していても、現場では70歳以上の継続雇用を“慣例”で行っている場合、突如その慣例を打ち切った際に不当解雇のような争いに発展する可能性もあります。つまり、「制度にない運用」が続くほど、企業側の説明責任が重くなるのです。
社会保険労務士としては、こうしたリスクに対し、就業規則や個別契約の設計段階から「更新の上限」「勤務条件の見直し」「処遇の根拠」までを明文化することを推奨しています。また、更新のたびに“形式的に押印させる”のではなく、対話を通じた納得のプロセスを設けることで、摩擦を未然に防ぐことが可能になります。
制度は「運用して初めて意味がある」ものです。だからこそ、現場に寄り添いながらルールと実態を一致させる支援こそが、社労士の重要な役割だといえるのです。
就業規則・再雇用規定の書き方と整備ポイント
高年齢者雇用安定法に基づいた実務的な条文化の工夫
高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保が努力義務とされた現在、企業は単に「制度として再雇用の仕組みを整えておく」だけでなく、就業規則や再雇用規定において“実際に運用できる条文設計”が求められるようになっています。条文化の甘さがトラブルの火種になることも少なくないため、社会保険労務士の立場からは、法令遵守と実務適合の両立を意識した条文化の工夫が必要です。
まず基本となるのは、「定年年齢」と「再雇用の対象・条件」を明確に定義することです。たとえば「当社の定年は満65歳とし、定年後、希望する者は原則として70歳までの範囲で再雇用する」といった基本的な枠組みを定めた上で、再雇用後の雇用形態(有期契約か、1年更新か等)、勤務日数、労働時間、業務内容についてもできる限り具体的に記載します。
次に重要なのは、「再雇用の更新基準や上限年齢」を明文化することです。たとえば、「再雇用は1年ごとに契約を更新するものとし、当社の定める業務遂行能力基準および健康状態を満たすことを条件とする」など、客観的かつ合理的な判断基準を明記することが、後のトラブルを未然に防ぎます。更新拒否の際には説明責任が問われるため、あらかじめ“何をもって更新しないか”を明示しておくことが肝要です。
また、「賃金水準や評価制度に関する条文」も近年注目されています。再雇用後に給与が下がる場合には、その理由(職務内容の変更、短時間勤務など)を就業規則または再雇用規程に明記しておく必要があります。そうしなければ、「差別的な取り扱いではないか」という誤解を生む恐れがあり、納得感ある制度運用が難しくなります。
さらに、「70歳以降の継続就業措置」についても、将来的な対応を見据えた条文設計が有効です。現在は努力義務ではあるものの、「会社の裁量により70歳以降の契約を行う場合がある」といった柔軟な条文を設けておくことで、制度の拡張にも対応しやすくなります。
条文は“抽象的すぎても、詳細すぎても”運用に支障をきたします。だからこそ、社労士は企業の実情に即したバランスの良い条文化をサポートし、「規則が現場で生きる制度」へと昇華させる役割を担うのです。
社会保険労務士が関与した見直し事例と成果
定着率・賃金制度・業務内容を再設計した成功パターン
定年制度・再雇用制度の見直しにおいて、「制度は整備したものの活用されていない」「再雇用後のモチベーションが続かない」といった声は多くの企業から聞かれます。こうした悩みを解消し、定着率の向上や人件費の最適化を実現した企業では、「賃金制度」「業務設計」「意識共有」の3点を一体的に再設計した成功パターンが見受けられます。以下に、社会保険労務士として支援した中堅製造業の事例をもとに、具体的な改善プロセスをご紹介します。
この企業では、従来から65歳定年・再雇用制度を導入していたものの、実態としては年齢到達後に業務負担を減らす名目で配置転換を行い、形式的な勤務にとどめる“名ばかり再雇用”となっていました。その結果、現場では「給与だけ下がって責任は同じ」「居場所がない」といった声が上がり、60代社員の離職率は年々増加傾向にありました。
そこで最初に取り組んだのが、「再雇用後の賃金制度の明確化」です。従来は単に基本給を一律に50%削減する形でしたが、見直し後は職務内容・役割・勤務日数に応じたポイント制を導入。定年後も専門性を活かせる業務に就く社員には相応の手当を加算し、「年齢で下げるのではなく、役割で決める」考え方へと転換しました。これにより、“割り切れなかった賃金の不満”が“納得感のある処遇”へと変わり、制度に対する理解も進みました。
次に実施したのが、「業務内容の再定義とチーム再編成」です。再雇用者には現場の補助業務だけでなく、若手の育成係やクレーム対応のサポートなど、“経験を活かす役割”を新設。現場では「頼れる先輩」として再評価され、業務のスムーズな引き継ぎにも貢献する好循環が生まれました。こうした再配置は就業規則の中でも「高年齢者の活用ポジション」として具体的に記載し、管理職への研修も実施。現場に制度が根付く工夫を加えました。
さらに、「定年延長に関する選択制度」を導入した点も特徴です。65歳で定年を迎える前に、60歳時点でキャリア面談を実施し、本人の意向と職場のニーズをすり合わせたうえで、65歳まで・70歳までといった複数の選択肢を提示。将来像が描けることで、社員の定着意欲も高まりました。
制度導入から2年で、再雇用後の定着率は60%から85%に上昇。人件費も大きな増加を招くことなく、業務効率や現場の安定性はむしろ向上するという成果を上げています。社労士としては、「制度の見直し」は単なる法令対応にとどまらず、「組織課題を解決する経営施策」として設計・運用することが、成功のカギになると確信しています。
高年齢者の雇用は“負担”ではなく“資産”として捉え直すべき時代です。その実現には、制度と現場運用をつなぐプロフェッショナルの関与が、極めて重要なのです。
まとめと結論(“義務化対応”から“戦略的運用”へ)
定年後の雇用制度を巡る環境は、「制度を整えること」から「どう運用し、どう活かすか」へと明確にシフトしています。高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保が努力義務となった今、企業が直面しているのは「制度対応の可否」ではなく、「再雇用をどう戦力化できるか」という本質的な課題です。
従来は、“法改正があったからとりあえず再雇用制度を作る”“65歳までは何となく延長している”といった“義務的対応”が多く見られました。しかしこの対応では、社員の納得を得られず、処遇への不満や役割の不明確さが温存され、結果として制度が形骸化してしまうケースが後を絶ちません。実際、再雇用後のミスマッチやトラブル、さらには人件費の増加や若手のモチベーション低下といった“見えづらいコスト”が積み重なっている企業も少なくないのです。
一方、制度を“戦略的に運用している”企業では、再雇用者を「コスト」ではなく「経験豊富な人材資源」として位置付け、業務設計・賃金制度・更新基準を一体的に再構築することで、現場力の向上や人材定着、組織活性化といった成果を上げています。ここで重要なのは、「制度そのものの設計」だけでなく、「現場にどう落とし込み、活用するか」という運用力です。
社会保険労務士として企業支援を行う中で実感するのは、制度が機能するか否かは、就業規則の文言だけでなく、「それが誰に、どのように伝わり、どんな行動を引き出すか」にかかっているという点です。高齢社員と若手社員の役割バランス、処遇の公平性、更新時の説明責任――こうした細かなポイントを“仕組み”として整えることで、制度は「守るためのルール」から「会社を強くする資産」へと変わっていきます。
これからの時代、高年齢者の雇用は単なる延命的な措置ではなく、“企業の持続可能性を支える戦略要素”として捉える必要があります。その第一歩として、今ある規程や運用を見直し、社労士とともに“活かす制度”へと進化させていくことが、企業の未来を守る道になるのです。
社会保険労務士に相談するメリットとサポート内容(全国対応可能)
定年制度や再雇用規定の見直しに着手しようとしたとき、多くの企業が直面するのが「法的要件はどこまで必要か」「社内実態とどう整合させるか」「制度は作ったが現場で機能していない」といった具体的な課題です。こうした悩みに対して、法令知識と実務対応の両面からサポートできるのが、社会保険労務士(社労士)です。
まず最大のメリットは、「法改正への確実な対応と就業規則の適正化」です。高年齢者雇用安定法や労働契約法といった関連法規を踏まえたうえで、自社の業種・規模・人員構成に合った定年・再雇用制度の設計が可能です。とくに、再雇用の契約更新や処遇変更、70歳以降の雇用方針といった“曖昧になりやすい論点”について、明文化や運用方法まで含めて具体的にアドバイスを受けることができます。
また、社労士は「制度設計」と「職場運用」をつなぐ専門家です。制度を文書として整えるだけでなく、実際に再雇用者と面談を行う管理職に対する説明支援や、再雇用希望者への事前通知・手続きフローの整備など、運用レベルでの支援が受けられます。これにより、制度を“現場で使えるもの”へと落とし込むことができ、形だけの制度で終わることがなくなります。
さらに、社会保険・労働保険との連動支援も強みの一つです。再雇用後の社会保険加入の可否や労働時間との兼ね合い、賃金設計と助成金の活用可能性など、制度導入に伴う周辺手続きや経済的支援策についてもワンストップで対応可能です。複数の部署や外部窓口をまたがずに済むことで、企業担当者の負担も大幅に軽減されます。
高山社労士事務所では、Zoom面談・クラウド文書対応・チャットサポートなどを活用した全国対応の体制を整えており、地方の中小企業から都市部の複数拠点企業まで、柔軟かつ継続的な支援が可能です。定期顧問契約により、法改正のたびに制度が陳腐化するリスクも回避でき、常にアップデートされた就業規則・制度運用を維持できます。
制度見直しの第一歩は、「どこがリスクで、何を直すべきか」を知ることです。だからこそ、経験豊富な社労士とともに、現場目線で使える定年・再雇用制度を築くことが、これからの時代に必要な人事戦略となるのです。
メール:t-sh-j@takayama-office.jp
営業時間:平日9:00〜18:00(土日祝お休み)