作成日:2025/12/16
「名ばかり管理職」として訴訟リスクが高まったケース
管理職=残業代不要は思い込み?その認識が招く落とし穴
「うちの管理職は残業代が出ないから…」そんな認識が、経営リスクを大きくする時代になっています。労働基準法において「管理監督者」は確かに労働時間・休憩・休日の規定が適用除外とされていますが、その認定要件は非常に厳格です。役職名や肩書きだけではなく、「経営方針への関与度」「勤務時間の裁量」「処遇の優遇」など実態をもとに総合判断されます。にもかかわらず、“名ばかり管理職”という表現が示すように、実際には現場リーダーが名目的に役職を与えられただけで、待遇や責任範囲が曖昧なままにされているケースも少なくありません。
私はこれまで20年超にわたり40,000件を超える労務相談に関わってきましたが、こうした“思い込み”によるリスクは、中小企業ほど見逃されがちであると感じています。特に中小企業では「プレイングマネージャー」が多く、現場作業をこなしながら後輩指導を行う中間管理職が、経営者から「管理職だから残業代は不要」と一括りにされがちです。しかし、実態としては指揮命令を受けて業務に従事し、出退勤も自由に決められず、待遇も一般職と大差ない。そうした状態では、労基署の調査や裁判になった場合、「管理監督者とは認められない」と判断され、多額の未払い残業代が発生するリスクがあります。
さらに、この問題の本質は“制度設計の不備”にあります。就業規則や役職制度において、管理職の定義や責任範囲、処遇の基準を明確にしておくこと。そして評価制度と連動させて、「なぜその待遇なのか」を説明できる体制を整えることが、トラブル予防につながります。
私の事務所では、単に法令を守るだけでなく、企業文化や経営スタイルに合わせた制度づくりをサポートしています。私は「経営者に寄り添い、ともに悩みを解決する」ことをモットーに、日々の相談に応じています。経営者の誠実な想いが、思わぬ誤解や訴訟につながらないよう、制度面からの支援を徹底して行うことこそ、社労士の役割であると考えています。
「名ばかり管理職」とは何か?法的定義と誤解されやすい点
社会保険労務士の視点で見るトラブルの典型構造
「管理職だから残業代は不要」と思い込んでいたが、実はその社員が“名ばかり管理職”とされ、多額の未払い残業代を請求された――。これは決して特殊なケースではなく、労務トラブルの現場では極めて典型的な構造です。社会保険労務士として現場支援にあたる中で、特に多いのが「役職と待遇・責任の不一致」から生じる混乱です。
具体的には、企業が社員に課長や係長といった肩書きを付け、「今日から君は管理職だから」として残業代の支給を打ち切る一方で、実際の業務はこれまでと何ら変わらず、裁量も処遇も限定的という状況です。本人はタイムカードで打刻し、上司の指示通りに働いている。会議にも経営的な判断を伴う場面には関与できず、賞与や基本給も非管理職とほぼ同水準――これでは労働基準法上の「管理監督者」とは認められないのです。
トラブルが表面化するきっかけは、退職時の残業代請求が多い傾向にあります。退職後に弁護士に相談した元従業員が、「自分は管理職とされていたが、実際は一般職と変わらない働き方だった」として、過去3年分の未払い残業代を請求するパターンです。企業側が十分な説明や規定整備をしていなければ、訴訟リスクは高まり、結果的に和解金や残業代支払いに追い込まれる事例は後を絶ちません。
また、管理職の範囲を曖昧にしたまま制度設計をしている企業ほど、複数の従業員が一斉に「名ばかり管理職」を主張する集団訴訟に発展することもあります。特に、労基署の臨検が入った際に「この役職者は本当に管理監督者か?」という視点で精査され、記録や制度が不備であれば是正勧告が出されるケースも散見されます。
このようなトラブルの根源は、「役職のラベル」だけで処遇を決めてしまうことにあります。本来であれば、就業規則や人事制度において“管理職の定義”と“処遇の根拠”を明文化し、それに基づいて評価・配置・給与設計を行うべきです。制度の整備と現場運用の両立がなされていないことが、訴訟リスクを生む構造そのものと言えるでしょう。
私は、こうした典型的な構造を熟知した上で、企業の実情に応じた制度設計と改善提案を行います。後手に回る前に、「うちは大丈夫か?」という視点で、制度を棚卸しすることが、最善のリスク回避策です。
実際に起きた「名ばかり管理職」訴訟の事例と教訓
就業規則・役職制度との整合性に潜むリスク
「うちは管理職の残業代は出さない」という制度が就業規則に書かれているから大丈夫――そう考えている経営者は少なくありません。しかし、そこにこそ重大なリスクが潜んでいます。なぜなら、制度として整っているように見えても、「実態と整合していない規定」は、むしろトラブルの火種になりうるからです。
社会保険労務士として現場を見ていると、「役職名」と「管理監督者」の法的定義が混同されたまま運用されているケースが多く見受けられます。たとえば、課長職以上は一律で残業代を支給しないという制度があるにもかかわらず、課長の役割や責任、権限についての記述が就業規則や人事制度に明記されていなかったり、運用上も一般社員と何ら変わらない扱いになっていたりする状況です。
また、等級制度や評価制度とのリンクが曖昧な場合も危険です。たとえば、等級表では「マネジメント層」と定義されていても、実際には部下がいない、裁量がない、経営会議に参加していないという事実があれば、それは「名ばかり管理職」として法的に否定されかねません。形式的に整っていても、運用実態が伴っていなければ、就業規則の記載は防衛材料にはなりません。
さらに、就業規則に「管理職は労働時間の規定を適用しない」と一文だけ記載してあるだけで、それに関する定義や範囲、判断基準が一切ないケースも多く見られます。こうした曖昧な規定は、労基署調査や訴訟時において「個別具体的な判断に耐えうる根拠」とはならず、結果的に企業側の主張が通らない事態を招きます。
だからこそ、就業規則や役職制度を見直す際には、「役職に何を求めるのか」「どのような処遇をもって管理職とするのか」「労基法上の管理監督者の定義にどう照らし合わせるのか」といった視点が欠かせません。これらを制度として明文化し、評価制度や給与制度と一貫性を持たせることが、リスクヘッジとして極めて重要です。
私は、単なる条文修正ではなく、企業の実情を丁寧にヒアリングし、就業規則・役職制度・評価制度の三位一体の設計を支援しています。整合性のない規定は、むしろ“リスクの温床”になる――この認識をもとに、制度を見直すことが経営者にとっての安心材料となるのです。
誤解を防ぐ制度設計と職務内容の明確化
社労士が提案する評価・処遇・役割の整理法
「管理職にしたのに訴えられた」「役職制度を設けたはずなのに不満が噴出した」――。こうしたトラブルの背景には、評価・処遇・役割の“曖昧さ”が潜んでいます。名ばかり管理職の問題も、形式だけの昇進・役職付与が引き金になることが多く、制度の根幹には“整合性”が問われています。社会保険労務士としては、これら3要素をセットで整理することが制度設計の基本であり、トラブル予防の要と考えます。
まず「評価」とは、役職者に何を期待し、どう成果を測るかという基準です。管理職としての評価項目に「部下育成」「マネジメント力」「業務改善提案」などが含まれているか、そしてその評価が等級・処遇に反映されているか。ここが曖昧だと、「何のために役職があるのか」が分からなくなり、社員の納得感も損なわれます。特に中小企業では、評価が定性的・属人的になりやすいため、簡易でもよいので明文化された評価基準を持つことが望ましいのです。
次に「処遇」。よくある誤解は、「役職に就けたのだから残業代を払わない」という考えです。しかし労基法上の管理監督者として扱うためには、役職に見合った相応の処遇(年収の優遇、賞与・手当の厚遇など)が求められます。評価と処遇が連動し、他の社員よりも明らかな待遇上の差がなければ、残業代支給の免除は認められません。そのため、役職手当の金額設定や昇給条件なども、制度上は非常に重要なポイントになります。
そして「役割」の明確化。就業規則や職務分掌規程の中で、「管理職とはこういう立場であり、何を任せ、どこまで決定権を持たせるか」を明記することが必要です。たとえば「人事評価への参加権限」「勤務時間の裁量」「経営会議への出席義務」などを定義しておくことで、管理職としての“実態”を裏付ける根拠になります。この定義が不十分なままでは、外形上は課長や部長でも、法的には一般社員と変わらないと判断されかねません。
私が企業に提案するのは、評価制度・等級制度・職務定義の三位一体設計です。会社の経営方針に沿って、「どんな役職を設け、誰に任せ、どう報いるか」を制度として可視化し、かつ就業規則に反映させることで、法的にも実務的にもブレない仕組みが実現します。
制度とは“線を引く”こと。誰に何を期待し、どのように処遇するのか。その整理なくして、真の管理職制度は成り立たないのです。
管理職に“相応の待遇”が必要な理由
社会保険労務士が関与して改善した制度構築の流れ
名ばかり管理職問題に悩む中小企業からの相談は後を絶ちません。ある製造業の事例では、課長クラスに対して残業代を支給せずに運用していたところ、退職した社員から「自分は管理職の実態にない」として未払い残業代を請求される事態に発展。経営者は「管理職だから当然」との認識でしたが、実態が伴わず、社内規程も曖昧で、法的には厳しい状況でした。
このようなケースで、私が最初に行うのは、既存の就業規則や職務定義、人事制度の現状分析です。課長に与えられている権限、評価基準、勤務の自由度、処遇面などをヒアリングし、管理監督者と見なされるための要件に照らして実態と規程とのギャップを洗い出します。
次に着手するのが「役職定義の再設計」です。管理職にどのような決定権限があるべきか、どの程度の裁量を持たせるのかを明確にします。あわせて評価制度も再構成し、プレイヤー業務とのバランスを取りながら、「管理職としての成果」が求められる評価項目を設定しました。
その後、処遇制度も見直します。特に役職手当や賞与の加算基準を整理し、「管理職であることに見合う処遇」として社内外に説明できる仕組みに再設計。たとえば、一般社員との年収差、インセンティブ制度の構築、勤務時間の柔軟性の付与などが含まれます。こうして「役職の重み」が制度的に裏付けられたことにより、会社としても法的な管理監督者の説明責任が果たせる状態を整えました。
最後に重要なのは「社内周知と教育」です。役職者に対して新たな制度の意義や責任、期待役割を明確に伝え、実務上の行動指針を共有することで、現場での混乱を防ぎました。経営層にも「このラインを超えると法的な責任が発生する」という知識を持ってもらい、以降は制度変更のたびに定期的なミーティングを行う体制を構築しました。
制度は一度整えて終わりではなく、企業の成長とともに進化させていくものです。社会保険労務士が関与することで、単なる就業規則修正ではなく、“組織運営に生きる制度”として息を吹き込む――これが、企業を守り育てるための真のサポートだと私たちは考えています。
まとめと結論(役職名だけで判断しないために)
「課長だから残業代は出さない」「管理職にしたから、もう労働時間は自由」――こうした“役職名だけ”に依拠した労務運用が、企業に重大な法的リスクをもたらす時代です。労働基準法における「管理監督者」は、単に役職名や立場で決まるものではなく、実際の職務内容・権限・待遇など多角的な要素を基に判断されます。つまり、“名前だけ”の管理職は通用しないのです。
社会保険労務士が現場で見る限り、多くの中小企業では「経営者の誠意」が逆にリスクを呼ぶこともあります。責任感を持たせたい、昇格させたいという思いから役職を与えても、制度設計が伴っていなければ、従業員との間に認識のズレが生じ、不満や不信、さらには訴訟にまで発展することもあります。名ばかり管理職の問題は、個人の問題ではなく、制度と運用のズレが引き起こす“構造的なリスク”なのです。
こうしたリスクを防ぐためには、「役職名の裏付けとなる制度」を整備することが何よりも重要です。就業規則、職務分掌、評価制度、給与体系、勤怠管理のルール――これらが連動し、役職にふさわしい“実態”を伴っていなければ、企業の主張は法的に通らなくなります。また、経営層だけでなく、社員に対しても役職者の定義や待遇の根拠を明示することで、誤解や不満の芽を事前に摘むことができます。
管理職制度の整備は、“罰則を避けるため”の対応ではなく、“会社の理念を伝える仕組み”と捉えるべきです。管理職に求める役割、期待する行動、報いるべき成果――これらを明文化し、制度として具現化することで、組織に一本の軸が生まれます。社員も「この会社はフェアだ」と感じ、自らのキャリアと向き合うようになります。
社会保険労務士は、こうした“経営視点に立った制度設計”を支援する専門家です。単なる法令遵守にとどまらず、組織運営に活かせる人事制度を整えることで、企業の健全な成長を後押しします。役職名だけに頼らず、制度と運用を整え、従業員との信頼関係を築いていく――これこそが、これからの時代に必要な労務管理の在り方です。
社会保険労務士に相談するメリットとサポート内容(全国対応可能)
「管理職制度を整備したいが、何から手をつければいいかわからない」「評価や処遇の仕組みが曖昧で、従業員とのギャップが心配だ」――こうした経営者の悩みに寄り添い、実務的かつ法的な観点から解決策を提示できるのが、社会保険労務士(社労士)です。就業規則や役職制度にまつわる課題は、単なる書類作成にとどまらず、“会社の文化”や“人材戦略”と密接に関わるテーマであり、その構築には専門的な知見と経験が不可欠です。
社労士に相談する最大のメリットは、制度設計と法令対応を同時に進められる点です。たとえば「管理監督者の定義」に関しても、法律に準拠しながら、企業の規模・業種・風土に合った現実的な制度に落とし込むことが求められます。法令に詳しいだけでは現場に合わず、現場に寄り添うだけでは法的リスクを見逃す。両者をバランス良く設計できるのが社労士の強みです。
さらに、社労士は制度導入後の運用支援まで含めた“伴走型サポート”を提供します。評価制度の定着支援、職務定義のブラッシュアップ、役職登用に伴う面談サポートなど、運用現場での混乱を避けるための実務的な支援を行います。これにより、制度が“形だけ”に終わることなく、組織の中で活きる仕組みとして根付かせることが可能です。
また、全国対応可能な点も大きな魅力です。高山社労士事務所では、Zoomやチャットツール、クラウドストレージなどを活用し、地域に関係なく迅速かつ柔軟な対応が可能です。「近くに専門家がいない」「忙しくて移動の時間が取れない」という企業様にもご安心いただける体制を整えています。全国の中小企業から寄せられる相談に応じてきた実績があるからこそ、さまざまな業界・規模に応じた最適解をご提案できます。
初回のご相談では、現行制度の診断と優先すべき改善ポイントを丁寧にご説明いたします。問題が顕在化してからでは手遅れになる前に、まずは“制度の棚卸し”から始めてみませんか。社労士への相談は、リスク対策であると同時に、会社の成長を支える戦略投資でもあるのです。
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