作成日：2025/10/24
就業規則が企業のリスクを守る！訴訟リスクとその回避策
企業を取り巻く訴訟リスクと就業規則の関係性（全国の企業動向を踏まえて）
近年、企業を取り巻く労務リスクはますます複雑化・深刻化しています。ハラスメント、未払い残業代、解雇無効、同一労働同一賃金、労働時間管理の不備など、大小さまざまな問題が、従業員との間に法的トラブルを引き起こしています。厚生労働省の「あっせん・調停・仲裁等事案」のデータによると、個別労働紛争の相談件数は依然として高止まりしており、特に中小企業においては「備えの不足」が深刻なダメージをもたらすケースが増加しています。
その中でも注目されるのが、「就業規則の整備状況」と訴訟リスクの相関関係です。就業規則は、従業員と企業のルールを明文化した、いわば“労務管理の憲法”とも言える存在です。これを適切に整備・運用している企業は、トラブルの予防だけでなく、万一訴訟や紛争に至った場合にも、強力な防御資料として機能します。逆に、就業規則が未整備だったり、古いまま放置されていたりする企業では、企業側の主張が通らず、損害賠償や和解金を支払う結果となる事例が後を絶ちません。
特に、コロナ禍以降に普及したテレワークや副業制度、柔軟な勤務形態など、多様な働き方への対応が求められる今、労働条件の定義を曖昧にしたまま運用していることが、訴訟リスクの火種になりやすくなっています。たとえば、「リモート勤務中の労災」「副業による情報漏洩」「契約社員との待遇差」などは、実際に裁判になった事例もあり、就業規則におけるルール整備の重要性が強調されています。
また、インターネットやSNSの普及により、労働者が権利意識を高め、情報を簡単に得られる時代になりました。その結果、「こんな処遇はおかしい」「この退職勧奨は違法では？」といった相談が、社外の労働組合や弁護士、労働局に持ち込まれることも日常的に起こっています。このような背景のもと、企業には“説明責任”と“正当性の根拠”が、これまで以上に求められているのです。
社会保険労務士として強調したいのは、「就業規則は整備すれば終わりではなく、“運用されて初めて意味を持つ”」という点です。記載内容が法令に適合しているか、職場の実態とずれていないか、従業員にきちんと周知されているか。こうした視点を持って、定期的に見直し、アップデートしていく姿勢こそが、訴訟リスクを回避し、従業員からも信頼される職場づくりにつながります。
今後、企業の労務リスクはさらに複雑化することが予想されます。その中で、就業規則をどのように整備し、どのように活用するかが、企業の持続的成長と安定経営を左右する大きなカギとなるのです。
訴訟リスクから企業を守る就業規則の役割
社会保険労務士の視点から見た法的防衛線の重要性
企業が従業員と良好な労働関係を築きながら、同時に法的リスクから身を守るためには、「就業規則を法的防衛線として機能させる」という視点が欠かせません。社会保険労務士として現場に立ち会う中で感じるのは、多くの企業が「就業規則＝形式的な社内ルール」と捉えてしまい、本来持つ“リスク回避の盾”としての価値を十分に活かせていないということです。
就業規則は、労働条件の最低限のルールを明文化するものであり、労働基準法第89条では常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して作成・届出が義務づけられています。さらに、同法第93条では「就業規則に反する労働契約の部分は無効」とされており、就業規則は個別契約よりも優先されることが法的にも認められています。
この点からも分かる通り、就業規則は単なる社内ガイドではなく、企業が「何を正当として主張できるか」を裏付ける法的文書なのです。たとえば、解雇、懲戒処分、労働時間の変更、兼業・副業の制限といった場面で、規定の有無やその運用実態が、紛争時の企業側の「正当性」を大きく左右します。
実際、トラブルに発展したケースでは、「事前にルールとして明記されていたか」「就業規則に基づいた手続きが行われていたか」「従業員に周知されていたか」が、裁判所や労働局の判断の分かれ目になります。つまり、就業規則に定めがない、あるいは実態と乖離していた場合、企業側の主張は弱くなりがちなのです。
さらに、労働審判や民事訴訟などの場面では、「就業規則の整備と周知」が企業の信頼性や誠実性の象徴として機能します。裁判官や第三者から見て、企業が適切に就業規則を整備し、法令遵守の姿勢を持っていたかどうかは、損害賠償の有無や和解条件にも影響を与えかねません。
社会保険労務士の役割は、この“法的防衛線”を最適な形で構築し、かつ実務で活用可能なものへと落とし込むことにあります。たとえば、以下のような観点からのサポートが可能です
・実態に即した規定のカスタマイズ（勤務形態・社風・業種別の対応）
・就業規則と連動した指導・懲戒・評価制度の整合性確認
加えて、トラブルが起きた際の社外対応（労働局・弁護士・社労士連携）や、再発防止のための体制整備にも対応します。これにより、単なる規則の作成にとどまらず、“就業規則を活かす”という戦略的なリスクマネジメントが可能となります。
まとめると、就業規則は「形だけ整えるもの」ではなく、「企業の立場を守る盾」であり、同時に「従業員との信頼構築の基盤」でもあります。社会保険労務士としては、その法的意味と実務活用の両面から、企業が安心して運営できる環境づくりを支援することが使命だと考えています。
就業規則がない、または形骸化している企業の危険性
社会保険労務士が見た実際のトラブル事例とその教訓
就業規則の整備が不十分だったことで、企業が深刻な労務トラブルに発展した事例は少なくありません。社会保険労務士として多くの現場を見てきた中で、最も教訓的な事例の一つをご紹介します。
ある中堅の製造業A社では、長年就業規則の見直しを行っておらず、内容は10年以上前の古い労働環境を前提としたものでした。近年は若手従業員の採用も増え、多様な働き方や副業を希望する声もあがっていましたが、ルール整備は後回しになっていました。
そんな中、ある従業員Bさんが定時後にSNSを使って副業を始めたことが社内で発覚。A社では副業禁止の方針が暗黙のうちに存在していたものの、就業規則には明記されておらず、説明文書やガイドラインも存在しませんでした。会社はBさんに対して「就業規則に違反した」として懲戒処分を下しましたが、Bさんは「副業が明確に禁止されていた事実はなく、処分は無効だ」として労働審判に訴えを起こしました。
結果、裁判所は「就業規則に明文化されておらず、かつ周知されていない方針によって処分を行うのは不当」と判断し、会社側に慰謝料と未払い賃金の支払いを命じる結果となりました。これによりA社は社会的信用を損なっただけでなく、従業員からの信頼も大きく揺らぐこととなったのです。
このケースの最大の問題点は、「就業規則が時代に追いついていなかったこと」と、「暗黙のルールに頼っていたこと」です。副業やテレワーク、フレックスタイム制度など、現代の働き方に対応するルールを明文化し、かつ全社員に周知徹底する体制があれば、トラブルを未然に防ぐことができたはずです。
また、就業規則の規定内容だけでなく、それに基づく懲戒手続きの手順も重要です。「懲戒の理由は何か」「どのような経緯で判断したか」「本人に説明し、意見を聞いたか」などの記録が一切残されていなかったため、企業側の対応に正当性が認められなかったのです。
このような事例から得られる教訓は明確です。就業規則は作成するだけでなく、時代に合わせて見直し、運用ルールと連動させ、記録と説明責任を果たすことで、初めて“企業を守る盾”として機能するのです。
社会保険労務士としては、就業規則の改定支援だけでなく、リスクの芽を早期に発見し、制度と運用の両面から支援することが可能です。「うちは大丈夫」と思っている企業ほど、思わぬトラブルに直面したときの打撃は大きくなります。トラブルが起きてからでは遅い──それがこの事例が伝える最大の警鐘です。
訴訟回避に効果的な就業規則の整備ポイント
明文化・周知・運用ルールの徹底がもたらす効力
就業規則は、企業における労務管理の基盤となるものであり、「何をもって違反とするのか」「どのような行動が評価されるのか」を明確に示すことで、従業員との間に共通のルールを形成します。その中でも特に重要なのが、「明文化」「周知」「運用」という3つの要素の徹底です。これらが揃ってはじめて、就業規則は現実の職場で力を発揮する“生きたルール”となります。
まず、「明文化」とは、会社としてのルールや方針を曖昧にせず、誰が見ても分かる形で言語化し、就業規則に正式に記載することを意味します。例えば、「副業禁止」「懲戒処分の種類と基準」「休職制度の条件」など、感覚的に判断しがちな事項こそ、条文化しておく必要があります。これにより、感情や状況によって対応がブレることを防ぎ、労働トラブル発生時にも会社の判断の正当性を主張しやすくなります。
次に、「周知」は、就業規則に定められた内容を従業員にしっかりと伝えるプロセスです。労働基準法第106条でも「労働者に周知させなければならない」と規定されており、単に就業規則を作成するだけでは不十分です。社内イントラネットへの掲載、紙面での配布、入社時の説明会、改定時の説明動画など、従業員が内容を理解し、いつでも確認できる状態を整えることが重要です。特に改定時には、その背景や変更点を丁寧に説明することで、従業員の理解と納得を得やすくなります。
最後に、「運用ルールの徹底」とは、就業規則に記載された内容を実際の現場で一貫して適用するという意味です。ルールはあっても、現場がそれを無視して独自の対応をしていたり、上司の判断で処分の基準がブレたりすれば、規則の意味は失われます。たとえば、遅刻や欠勤に対する処分、休職からの復職判断など、実際の事案に対して就業規則通りに運用されているかどうかは、裁判や労働紛争において非常に大きな意味を持ちます。過去の事例との整合性が取れているかも問われます。
また、これら3要素が徹底されていれば、企業にとって次のような効力が生まれます：
逆に、明文化が不十分で、周知もされておらず、運用もバラバラであれば、規則があっても実効性がなく、企業の信頼性すら損なわれてしまいます。
社会保険労務士としては、単に就業規則を作成・改定するだけでなく、「明文化・周知・運用」の各段階において実務上の支援を行い、組織内に確実に定着させることが重要だと考えています。具体的には、周知用資料の作成支援、管理職研修での運用方針の共有、運用記録のテンプレート提供など、現場に即したサポートが可能です。
就業規則は、備えとして持つだけでは不十分です。「伝え、理解され、正しく使われているか」が、企業を守る鍵となるのです。
定期的な見直しと社会保険労務士の活用法
訴訟リスクを未然に防ぐ“予防法務”の視点
企業における法的トラブルの多くは、突発的に起きるのではなく、日常業務の中で積み重なった小さな齟齬や曖昧な対応が火種となって発生します。こうしたトラブルを未然に防ぐための考え方として、近年注目されているのが「予防法務」です。これは、問題が起きてから対処する“事後対応型”の法務とは異なり、「リスクの芽を早期に察知し、制度や運用で先手を打つ」ことを重視する手法です。
特に人事労務分野では、労働契約の不一致、処分の妥当性、労働時間の管理、パワハラ・セクハラの対応など、従業員との信頼関係に直結する領域が多く、法的リスクへの感度が低いと重大なトラブルに発展しかねません。こうした背景から、社会保険労務士の立場では、企業に対して「就業規則を軸とした予防法務」の導入を強く推奨しています。
予防法務の視点から見ると、就業規則は単なる社内ルールではなく、「リスクを見える化し、管理するためのマネジメントツール」です。例えば、懲戒処分に関する条文が曖昧であれば、処分を行った際に「恣意的な判断だ」と主張される可能性があります。しかし、具体的な行為と処分内容が明確に規定されていれば、処分の正当性を担保する根拠となり、訴訟回避に直結します。
また、労働時間や休憩の取り扱い、副業・兼業、ハラスメント防止措置など、現代の働き方に即したリスク要素を事前に洗い出し、就業規則に反映させておくことも、予防法務の一環です。さらに、規則を整備するだけでなく、運用実態との整合性を常にチェックすることが重要です。制度と現場が乖離していると、社員からの信頼を損ない、訴訟リスクを高めてしまいます。
この予防法務を実効性あるものにするためには、以下のような取り組みが求められます：
・法改正や社会情勢の変化に応じた就業規則の定期的見直し
・規則に基づいた運用体制（管理職へのルール周知・指導マニュアルの整備）
・労使間での対話の促進（労働者代表の意見聴取、説明会の実施）
・トラブル事例の共有と社内研修によるリスク感度の向上
予防法務の真髄は、「トラブルにならない工夫を、事前に制度と運用に仕込むこと」にあります。そしてこれは、就業規則という明文化された“仕組み”を持ち、それを“回す力（運用）”があってこそ機能します。社会保険労務士は、この仕組みと運用の両輪を支えるパートナーとして、企業と伴走することができます。
特に中小企業においては、法務部門が存在しない、あるいは機能が限定的であるケースが多く、社会保険労務士が実質的に予防法務を担うケースも少なくありません。労働トラブルが表面化してからでは、解決にかかるコストやダメージは甚大です。だからこそ、“問題が起こらない”ための投資”として、就業規則と予防法務の活用が企業経営の安定を支える要となるのです。
まとめと結論（ルールが信頼を生み、企業を守る）
企業と従業員の関係性が多様化し、法的リスクが高まる現代において、就業規則は単なる社内の“お飾り文書”ではなく、組織運営を支える根幹であり、企業防衛の最後の砦でもあります。これまで見てきたように、就業規則をしっかりと整備・周知・運用している企業と、形だけで実態が伴っていない企業とでは、トラブル発生時の被害の大きさに大きな差が生まれます。
特に中小企業においては、「人手が足りないから」「トラブルが起きてから考える」などの理由で後回しにされがちですが、いざ問題が顕在化したときには、裁判や労働審判での対応、従業員への補償、信頼の失墜など、多大な代償を払うことになりかねません。これは経営リスクそのものであり、事業の継続性にも大きく影響します。
一方で、就業規則を通じて企業の方針やルールを明確にし、それを全従業員に共有することで、組織内に共通の価値観と行動基準が生まれます。これにより、無用な誤解や混乱を防ぎ、従業員との信頼関係が醸成され、職場の一体感や定着率の向上にもつながるのです。つまり、就業規則は“リスク管理”の道具であると同時に、“組織文化を育てる装置”でもあります。
また、就業規則は一度作って終わりではなく、企業の成長や社会の変化に応じて常にアップデートしていくべきものです。テレワーク、副業、同一労働同一賃金、ハラスメント防止など、今や企業が対応すべきテーマは年々複雑化しており、これに追いつくためには、定期的な見直しと社外専門家の助言が不可欠です。
社会保険労務士は、こうした法改正や実務運用のポイントを押さえつつ、企業ごとに最適な制度設計と現場運用のサポートを行います。単に条文を整えるだけでなく、実際の労務トラブルの事例や裁判例を踏まえ、予防法務の観点から企業を守る提案ができる点は、社労士ならではの強みです。
結論として、ルールがあることで社員は安心し、企業は主張を持てるのです。信頼関係は“曖昧な配慮”ではなく、“明確な仕組み”の中でこそ育まれます。だからこそ、経営者が今すぐ取り組むべきは、就業規則を実態に合わせて整備し、「守る」から「活かす」フェーズへと進化させることです。
企業の持続的成長と組織の安定のために──。就業規則というルールこそが、企業の未来を守る最良のツールであることを、今一度認識していただきたいと思います。
社会保険労務士に相談する理由とお問い合わせ情報（全国対応可能）
就業規則の整備や運用を企業内だけで完結させることは、決して容易ではありません。労働基準法や関連する省令・判例の知識に加え、職場の実態と照らし合わせた制度設計、さらには従業員との関係性に配慮したコミュニケーションまで、多角的な視点が求められるからです。そこで重要な役割を果たすのが、労務の専門家である社会保険労務士です。
社会保険労務士は、企業の労働・社会保険手続きに関する事務を担うだけでなく、「法令に準拠した就業規則の作成・改定」「従業員トラブルの予防支援」「制度設計と実務運用のサポート」など、企業経営における“人”に関する課題解決のパートナーとして機能します。法的な裏付けに基づいた助言と、現場で使える制度づくりの両方を支援できる専門職として、多くの経営者から信頼されています。
たとえば、以下のような課題を抱えている企業には、社労士のサポートが効果的です：
・テレワーク、副業、同一労働同一賃金などの新制度に対応できていない
・管理職への労務教育やマニュアル整備が追いついていない
全国対応可能な社会保険労務士であれば、オンライン会議やクラウド共有ツールを活用し、遠方の企業であっても丁寧なヒアリングと具体的な提案が可能です。特に近年は、ZoomやGoogle Meetなどを通じて、地方企業へのリモート支援を行うケースも増加しており、物理的な距離が壁になる時代ではなくなっています。
また、社労士に相談することで、単に就業規則を「作る」だけでなく、企業文化や経営理念を反映した「活かす」就業規則づくりが実現します。従業員にとっても理解しやすく、経営者にとっても使いやすい、バランスの取れたルール整備が可能になるのです。
当事務所では、全国対応の体制を整えており、企業規模や業種に合わせた柔軟な支援を行っています。初回相談は無料で承っており、現状の課題や就業規則のチェックポイントについて丁寧にアドバイスいたします。実際にご依頼いただいた企業様からは、「従業員との信頼関係が改善された」「人事判断に自信が持てるようになった」といったお声も多数いただいております。
労務リスクを予防し、企業を守る就業規則を整えたい経営者の方は、ぜひ一度、社会保険労務士へのご相談をご検討ください。企業の未来を支える“見えないインフラ”として、就業規則は今、最も注目すべき経営資源のひとつです。
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