作成日：2025/09/23
増加する労務トラブル…未然に防ぐ就業規則の作り方とは
労務トラブルが増加する現代の背景と、就業規則の重要性
ここ数年、私たち社会保険労務士のもとには「社員から突然労働基準監督署に通報された」「ハラスメントで訴えられた」「残業代の請求を受けた」といった、労務トラブルに関する相談が急増しています。特に中小企業では、労務管理体制が不十分なまま組織が拡大した結果、問題が表面化するケースが後を絶ちません。
その背景には、大きく3つの時代的変化があります。まず一つは、働き方の多様化です。テレワーク、副業・兼業、フレックスタイム制など、従来とは異なる就労形態が増えたことで、企業も従業員も“前提のズレ”を感じる場面が多くなっています。次に、法改正のスピードです。パワハラ防止法、育児介護休業法の改正、同一労働同一賃金など、対応が後手に回ることでリスクが高まっている企業も少なくありません。そして三つ目は、情報の可視化です。SNSや口コミサイトの普及により、社員が「会社に不満を持ったまま我慢する」時代は終わり、外部に発信することで問題が拡大しやすくなっています。
こうした状況下で、企業がリスクを最小限に抑えるために今すぐ取り組むべきなのが「就業規則の見直しと整備」です。就業規則は、社員との信頼関係を築くための明文化されたルールであり、万が一トラブルが起きた際の判断基準にもなります。つまり、“企業を守り、社員を守る”ための根幹となる存在なのです。
私自身、これまで多くの企業で労務トラブルの現場に立ち会ってきましたが、その多くは「就業規則があいまいだった」「規定はあっても周知されていなかった」「法改正に対応できていなかった」といった共通点が見られます。一方で、しっかりとルールを整備し、社員に分かりやすく伝えている企業では、同じような問題が起きても円満に解決できるケースが多いのも事実です。
大切なのは、「就業規則があるかどうか」ではなく、「その内容が現代の働き方に合っているか」「実際に機能しているか」です。社員が何を求め、何に不安を感じているのかを汲み取り、それを制度として整備することが、労務トラブルを未然に防ぐ最も効果的な方法です。
これからの時代、企業に求められるのは「ルールで縛る経営」ではなく、「ルールで支える経営」です。就業規則を通じて、社員との信頼関係を強化し、安心して働ける環境をつくることこそが、企業の持続的な成長に不可欠な戦略なのです。
なぜ労務トラブルは増えているのか？企業が抱える根本課題
働き方の多様化・法改正・情報拡散の影響
現代の労務管理において、企業が直面する最大の課題のひとつが「変化の速さ」への対応です。とりわけ、働き方の多様化、相次ぐ法改正、そして情報拡散のスピードは、労務トラブルの引き金になりやすい要因として密接に関係しています。これらの変化に制度が追いついていないことで、企業は知らず知らずのうちにリスクを抱えることになるのです。
まず「働き方の多様化」について見てみましょう。コロナ禍以降、テレワークや時差出勤、副業・兼業の解禁といった柔軟な働き方が一気に拡大しました。一方で、「出社時と同じルールで管理してよいのか？」「労働時間の把握はどうするのか？」「副業での事故やトラブルはどう扱うのか？」といった新たな疑問やグレーゾーンが多く生まれ、明確なルールがないまま現場で混乱が起きるケースが増えています。
続いて「法改正の影響」です。近年、パワハラ防止措置の義務化、育児介護休業法の改正、同一労働同一賃金の導入など、企業が対応すべき労働関連法は年々複雑化しています。これらの改正内容を就業規則に反映させていない、または制度だけを導入して運用が伴っていない状態では、トラブルが起きた際に企業側の過失とされかねません。特に中小企業では、「法改正は知っているけれど、何をどう変えればいいかわからない」と手つかずのままになっているケースも多く見受けられます。
そして見落とされがちなのが、「情報拡散の影響」です。今や社員一人ひとりがSNSなどを通じて、企業内の状況や不満を外部に発信できる時代です。ハラスメントの告発、残業代未払いの訴え、社内の対応への不信などがSNSで拡散すれば、瞬く間に企業の信頼は失われます。こうした状況を防ぐためには、「問題が起きたらどう対応するか」だけでなく、「問題を起こさないための明確なルールと説明責任」が問われるようになっています。
このように、働き方・法制度・情報環境という3つの軸が同時に変化している今、就業規則をはじめとした労務制度も従来の「とりあえず作った」レベルでは通用しなくなっています。制度の整備とあわせて、「今の時代に合った運用ルールにアップデートされているか」「社員にきちんと伝わっているか」を見直すことが、労務トラブルを未然に防ぐ第一歩となるのです。
社会保険労務士として私が常に意識しているのは、制度と運用のギャップを埋めること。制度があることよりも、それが“現場で機能しているか”が重要です。時代の変化に適応しながら、社員との信頼関係を築く制度づくりが、企業の安定経営に欠かせない時代になっています。
社会保険労務士の現場で見た「備えなかった企業」の共通点
私はこれまで、社会保険労務士として多くの労務トラブル現場に立ち会ってきました。その中で強く感じるのは、「トラブルが起きる企業には、ある共通した“備えの欠如”がある」ということです。もちろん業種や規模、社員構成はさまざまですが、問題が顕在化した企業には、いくつかの典型的な特徴が見られます。
まず第一に挙げられるのが、「就業規則が古いまま放置されている」ことです。10年前に作った就業規則をそのまま使い続けている、法改正に一切対応していないという企業は少なくありません。例えば、パワハラ防止法の義務化や育児介護休業制度の拡充など、ここ数年の重要な改正にもかかわらず、対応していなければ法的なリスクが高まります。しかも、社員がこれらの制度を理解していなければ、不信や不満が生まれ、退職や訴訟といった深刻な事態に発展する可能性もあります。
次に、「ルールはあるが、現場に伝わっていない」というケースも非常に多く見られます。就業規則や社内ルールが整っていても、それを社員に周知していなければ、実質的には“存在しない”のと同じです。特に新入社員や中途採用者には、制度やルールを丁寧に説明しなければ、「言われていない」「知らなかった」という形でトラブルの火種になります。
さらに、「経営者や管理職が制度の内容を把握していない」という問題もあります。制度は作ったが、活用されず、管理職の対応が属人的でバラバラという企業では、社員の間で不公平感が生まれやすく、組織内の信頼関係も崩れがちです。これは、上司の指導がパワハラと受け取られたり、評価の不透明さが不満につながったりと、離職や紛争の要因になりやすいです。
また、「労務相談窓口が機能していない」ことも見逃せません。ハラスメントや職場内のトラブルが発生しても、どこに相談すればよいかが明示されていなかったり、相談しても改善されないという声が続くと、社員は社外の第三者やSNSに訴えるようになります。これは企業にとって、非常に大きな reputational リスクを伴います。
こうした“備えなかった企業”に共通するのは、制度を「整えること」が目的になっていて、「使える状態にすること」への意識が欠けている点です。就業規則は作成して終わりではなく、日々の業務に根づかせ、社員との信頼関係を築く“運用型ツール”でなければなりません。
私は、トラブルが起きてからの相談も数多く受けてきましたが、どれも“あと一歩早ければ防げた”というケースばかりです。だからこそ、社会保険労務士として、企業が制度を“生きたルール”として活用できるよう、事前の備えと運用支援に力を入れています。労務トラブルは予防が何よりも効果的。今すぐ始められる対策こそが、企業と社員を守る最善策なのです。
トラブルを未然に防ぐ就業規則の考え方と整備の流れ
“網羅するだけ”から“運用されるルール”への転換
就業規則を整備する際、多くの企業が陥りがちなのが「とにかく抜け漏れなく項目を網羅すること」に注力しすぎてしまうという点です。もちろん、法令に準じた内容を過不足なく盛り込むことは大前提ですが、現場で実際に“使われない”“守られていない”ルールでは、意味がありません。社会保険労務士として現場を見てきた私の実感として、労務トラブルを防ぎ、社員と信頼関係を築くためには、就業規則を“運用されるルール”へと進化させることが欠かせないと確信しています。
“網羅型”の就業規則は、一見すると安心感があります。労働時間、休暇、服務規律、懲戒、退職など、法的に定められた項目がすべて揃っているからです。しかし、その一つひとつが実態と乖離していたり、社員が内容を理解していなかったりすれば、トラブルのリスクは逆に高まります。たとえば、「副業は禁止」と記載しているにもかかわらず、現場では黙認されていたり、「テレワークは業務に支障がある場合は認めない」としているのに、その判断基準が明文化されていない――こうした“ズレ”が社員との信頼関係を損ない、不満や誤解の温床になります。
“運用されるルール”とは、単に記載されているだけでなく、日常業務の中で活用され、社員が自ら理解し納得して動ける状態にある規則です。そのためにはまず、就業規則を「経営者の頭の中」だけで作るのではなく、「現場の声」を取り入れて設計することが重要です。たとえば、時間外労働の取り扱いやハラスメント防止策などについて、実際に従業員や管理職と対話しながら具体的なルールに落とし込むと、納得度も高く、実効性のあるものになります。
さらに、規則を作った後の「社内への伝え方」も極めて重要です。私は、就業規則の改定後には必ず説明会や周知資料の作成を支援し、社員一人ひとりが“自分ごと”として理解できるよう工夫をしています。特に若手社員は、条文だけでは内容を理解しづらいため、イラストや図解を用いたり、想定Q&Aを用意したりすることが効果的です。
また、“運用”という観点では、ルールを定期的に振り返り、必要に応じて柔軟に見直す仕組みも欠かせません。企業も社員も、ライフスタイルや働き方が常に変化しています。それに対応し続ける就業規則こそが、信頼される組織運営の基盤になります。
最終的に大切なのは、「規則を守らせる」のではなく、「規則によって社員が安心し、主体的に行動できる環境をつくる」こと。網羅するだけの就業規則ではなく、運用され、活かされ、組織に根付く就業規則こそが、これからの企業に求められる“本物のルール”です。私は、そうした“生きた制度づくり”を支援する社労士であり続けたいと考えています。
規則に盛り込むべき重要項目
就業規則を整備する際には、「法律で決まっているから」という理由だけでなく、実際に起こりうるトラブルや時代の変化に備えるという視点が欠かせません。特に昨今は、働き方の多様化や人権意識の高まり、価値観の多様性など、労務管理を取り巻く環境が大きく変化しています。その中で、就業規則に盛り込んでおくべき重要項目は年々増えており、法改正の流れに応じた柔軟な見直しが求められています。
まず対応が必須なのが、ハラスメント防止に関する規定です。2022年4月から中小企業にも義務化された「パワーハラスメント防止法（改正労働施策総合推進法）」により、就業規則や服務規律の中にハラスメントの定義・禁止・相談体制・処分の方針を明文化しておくことが重要になりました。また、セクハラ、マタハラ、SOGIハラ（性的指向や性自認に関する差別）といった多様なハラスメントにも対応できる包括的な規定が求められています。
次に注目すべきは、副業・兼業の扱いです。政府が働き方改革の一環として副業・兼業を推進する中で、企業も就業規則において「原則禁止」「許可制」「条件付き容認」など、自社の方針を明確にしておく必要があります。無制限に認めると情報漏えいや労働時間管理の問題が生じますが、厳しすぎても人材確保に支障が出るため、バランスの取れた規定が求められます。
また、テレワークやフレックスタイム制度などの柔軟な勤務形態に関する項目も近年増えています。特にコロナ禍以降、在宅勤務を継続的に行う企業では、「勤務時間の管理方法」「通信費・光熱費の扱い」「セキュリティ対策」などを明文化することが、トラブル防止につながります。
さらに、2023年・2024年の法改正で注目されたのが、育児・介護休業制度の拡充です。男性の育児休業取得促進を目的とした「出生時育児休業（産後パパ育休）」や、分割取得の柔軟化などに対応した規定が必要です。特に中小企業では制度はあるものの運用が曖昧なケースが多く、明確な取得手続き・事前申請・不利益取扱いの禁止などを明記しておくことで、社員の安心感にもつながります。
加えて、就業時間・休憩・休日・残業手当の取り扱いといった基本的な項目も、形だけでなく運用実態に即した記載が重要です。実態と乖離がある場合、未払い残業代請求や長時間労働問題の火種になりかねません。
最後に忘れてはならないのが、トラブル時の対応フローの明記です。懲戒処分の手続きや、社内相談窓口の設置、内部通報制度の概要などを規定することで、社員も企業も安心して適切に対応できる環境が整います。
これらの項目をタイムリーに見直し、実際の運用と連動させていくことが、就業規則の本来の目的＝「トラブルの予防と信頼関係の構築」を実現するためのカギとなります。私は社労士として、単なる条文化ではなく、“現場で生きるルール”としての整備を常に意識して支援しています。
社員と信頼関係を築く就業規則のつくり方
「守るルール」から「育てるルール」へ
就業規則というと、「社員を管理するためのルール」「違反があったときの罰則集」といったイメージを持たれることが少なくありません。しかし、現代の職場環境や人材の価値観の変化を考慮すれば、就業規則はもはや“守らせるためのルール”だけでは不十分です。むしろ、社員の成長と組織の進化を後押しする“育てるためのルール”へと転換していくことが、これからの企業に求められる視点です。
「守るルール」とは、労働時間や休憩、服務規律、懲戒処分など、いわば会社を運営する上での最低限の枠組みです。もちろんこれらは法的な基盤として必要不可欠ですが、社員のモチベーションや組織文化に大きな影響を与えるとは限りません。実際、「ルールがあるから仕方なく従う」「会社に縛られているようで息苦しい」と感じている社員も一定数存在します。
一方で、「育てるルール」とは、社員が自らの意思で行動し、成長できるよう導く規程設計のことです。たとえば、キャリア形成を促すための評価制度やスキルアップ支援制度、働きがいを高める柔軟な勤務制度、ライフイベントに応じた休業制度などがそれにあたります。これらは、会社が“社員に何を期待し、どのように支援するか”を明文化し、個人の成長と企業の発展を同時に後押しする仕組みとなります。
私が支援したある企業では、従来の就業規則では懲戒や注意事項ばかりが目立っていたため、社員との距離感が生まれていました。そこで、「挑戦する人を歓迎する」「失敗から学ぶ文化を大切にする」といった会社の価値観を服務規律の冒頭に明文化し、評価制度や研修制度と連動させる設計に見直しました。すると、社員からは「会社が私たちの成長を応援してくれていると感じるようになった」という声が多く聞かれ、職場の雰囲気にも大きな変化が見られました。
また、「育てるルール」の重要な特徴は、時代と共に“進化する”ことです。育児・介護、ダイバーシティ、副業、メンタルヘルス対応など、社員の働き方や価値観は常に変化していきます。それに対応する形で制度やルールを柔軟に見直し、現場にフィードバックする姿勢こそが、社員との信頼関係を築くカギになります。
就業規則は、単なるリスク対策や法令順守のための文書ではありません。それは、企業理念を具体化し、社員との約束を可視化し、組織全体の“行動指針”となる存在です。「守らせるためにある」から「育てるためにある」へ。社会保険労務士として、私はそんな前向きな制度設計のあり方を企業に提案し続けています。社員とともに成長する会社には、育てる力のある制度があります。
トラブル予防に効く社内説明会と周知の工夫
就業規則は、いくら内容が法的に正しく整っていても、それが社内で理解され、活用されなければ意味がありません。実際に私が社会保険労務士として企業をサポートする中で、「規則は作ったけれど社員に伝えていなかった」「管理職ですら中身をよく知らなかった」といったケースを多く見てきました。このような状態では、トラブルが発生した際に「聞いていない」「知らなかった」という社員側の主張が通ってしまい、企業としても不利な立場になる可能性があります。
そのため、就業規則の“周知徹底”は、制度の実効性を高めるうえで欠かせないプロセスです。なかでも特に効果的なのが、社内説明会の実施です。就業規則を改定したタイミングや、新入社員の入社時、あるいは制度運用の節目に合わせて説明会を開催することで、社員に制度の目的や運用ルールを正しく理解してもらうことができます。
説明会では、単に条文を読み上げるのではなく、「なぜこの規則が必要なのか」「社員にどのような影響があるのか」をかみ砕いて伝えることが大切です。たとえば、ハラスメント防止規程を紹介する際には、具体的なNG行動例や相談先、報告後の対応フローなどをイラストやフローチャートを用いて説明すると、社員の理解度が格段に高まります。
また、説明会だけではなく、周知の工夫にも配慮が必要です。紙の配布だけでなく、イントラネットへの掲載、定期的なリマインドメール、動画マニュアルの配信など、複数の方法を併用することで、社員の目に触れる機会を増やし、制度を“自分ごと”として意識させることができます。特に若年層や非正規社員は、就業規則に触れる機会が少ない傾向にあるため、分かりやすいツールでの周知が効果的です。
さらに、管理職向けの個別研修も重要です。管理職は就業規則の運用責任者でありながら、意外と内容を把握していないケースも多いため、「部下の相談を受けた時にどう対応するか」「規則に照らして判断すべきポイントはどこか」といった実践的な視点からの研修を行うことで、現場での制度運用力が格段に向上します。
制度は、社員に「守らせる」ものではなく、「安心して働くための味方」であるべきです。その認識を社員と共有するためにも、説明会と周知活動は単なる手続きではなく、組織文化をつくる取り組みの一つとして位置づけることが大切です。
社会保険労務士として、私は就業規則の作成や改定の際には、必ず「どう伝えるか」「どう浸透させるか」まで含めてご支援しています。トラブルの多くは、“知らなかった”ことが原因で起こります。逆に言えば、“知っている”だけで防げるトラブルもたくさんあるのです。だからこそ、就業規則を「運用されるルール」にするための説明と周知には、十分な時間と工夫を惜しまないことが、労務リスク回避への近道になります。
実際の就業規則見直し事例と効果
社労士が支援した企業での成果と変化
就業規則は、いくら内容が法的に正しく整っていても、それが社内で理解され、活用されなければ意味がありません。実際に私が社会保険労務士として企業をサポートする中で、「規則は作ったけれど社員に伝えていなかった」「管理職ですら中身をよく知らなかった」といったケースを多く見てきました。このような状態では、トラブルが発生した際に「聞いていない」「知らなかった」という社員側の主張が通ってしまい、企業としても不利な立場になる可能性があります。
そのため、就業規則の“周知徹底”は、制度の実効性を高めるうえで欠かせないプロセスです。なかでも特に効果的なのが、社内説明会の実施です。就業規則を改定したタイミングや、新入社員の入社時、あるいは制度運用の節目に合わせて説明会を開催することで、社員に制度の目的や運用ルールを正しく理解してもらうことができます。
説明会では、単に条文を読み上げるのではなく、「なぜこの規則が必要なのか」「社員にどのような影響があるのか」をかみ砕いて伝えることが大切です。たとえば、ハラスメント防止規程を紹介する際には、具体的なNG行動例や相談先、報告後の対応フローなどをイラストやフローチャートを用いて説明すると、社員の理解度が格段に高まります。
また、説明会だけではなく、周知の工夫にも配慮が必要です。紙の配布だけでなく、イントラネットへの掲載、定期的なリマインドメール、動画マニュアルの配信など、複数の方法を併用することで、社員の目に触れる機会を増やし、制度を“自分ごと”として意識させることができます。特に若年層や非正規社員は、就業規則に触れる機会が少ない傾向にあるため、分かりやすいツールでの周知が効果的です。
さらに、管理職向けの個別研修も重要です。管理職は就業規則の運用責任者でありながら、意外と内容を把握していないケースも多いため、「部下の相談を受けた時にどう対応するか」「規則に照らして判断すべきポイントはどこか」といった実践的な視点からの研修を行うことで、現場での制度運用力が格段に向上します。
制度は、社員に「守らせる」ものではなく、「安心して働くための味方」であるべきです。その認識を社員と共有するためにも、説明会と周知活動は単なる手続きではなく、組織文化をつくる取り組みの一つとして位置づけることが大切です。
社会保険労務士として、私は就業規則の作成や改定の際には、必ず「どう伝えるか」「どう浸透させるか」まで含めてご支援しています。トラブルの多くは、“知らなかった”ことが原因で起こります。逆に言えば、“知っている”だけで防げるトラブルもたくさんあるのです。だからこそ、就業規則を「運用されるルール」にするための説明と周知には、十分な時間と工夫を惜しまないことが、労務リスク回避への近道になります。
まとめと結論（“就業規則の質”が企業の未来を守る）
これまで述べてきたように、就業規則は単なる“社内ルール”ではなく、企業の未来を左右する重要な経営ツールです。特に現代は、働き方の多様化や価値観の変化、情報社会の進展、そして頻繁な法改正など、企業を取り巻く環境がかつてないスピードで変化しています。そんな時代において、労務トラブルを未然に防ぎ、社員の信頼を獲得し、企業の成長を支えるのは、“就業規則の質”そのものだと私は確信しています。
一昔前のように「とりあえず作っておけばいい」「形式だけ整えておけば問題ない」という姿勢では、もはや通用しません。むしろ、そうした姿勢こそが社員の不信感を招き、離職や訴訟といった重大なトラブルにつながるリスクを高めてしまいます。今の時代に求められるのは、「作る」ことではなく、「機能させる」こと。言い換えれば、就業規則を“運用されるルール”に育てていく姿勢こそが、企業に求められる姿勢なのです。
質の高い就業規則とは、法的に正確であることはもちろんのこと、自社の経営方針や組織文化、社員の実態に即して設計されているものです。そしてそれが、全社員に伝わり、日々の業務の中で自然と活用されている状態が理想です。さらに、定期的な見直しによって時代の変化に対応し続ける“進化するルール”であることも、これからの企業に必要不可欠な視点です。
私たち社会保険労務士は、そのための伴走者です。単なる条文の修正だけでなく、「どのように現場に定着させるか」「社員にどう理解させるか」といった運用面までを見据え、企業の“労務力”を底上げする支援をしています。就業規則がしっかりしていれば、会社のリスクは確実に減り、社員も安心して働くことができます。その積み重ねが、職場の雰囲気を変え、生産性を高め、採用や定着にも好影響を与えます。
いま、制度を見直すことに遅すぎるということはありません。むしろ、今こそがチャンスです。社内で小さな違和感やモヤモヤが見えているうちに、一歩を踏み出すことができれば、大きなトラブルに発展する前に対策を講じることができます。就業規則の見直しは、決して難しいことではありません。社会保険労務士の力を借りながら、少しずつでも前に進めていくことが、企業の未来を守る確かな一歩になります。
“就業規則の質”が、企業の未来を守る。これは経験からくる真実です。社員と会社が共に歩める職場づくりを、制度から見直すことで、あなたの会社の未来は確実に変わります。
社会保険労務士に相談するメリットとお問い合わせ情報（全国対応可能）
就業規則の整備や見直しにあたり、「本当に専門家に相談する必要があるのか」「自社である程度は対応できるのでは」と感じている企業担当者の方も多いかもしれません。しかし実際には、制度の複雑化や法改正の頻度、社員との関係性の多様化など、現代の労務環境は年々高度化しています。そんな中、社会保険労務士に相談することには、企業にとって多くのメリットがあります。
まず第一のメリットは、最新の法改正への確実な対応ができるという点です。労働基準法、育児介護休業法、パワハラ防止法、同一労働同一賃金といった重要な法令は、近年頻繁に改正されています。自社内だけではその情報を追いきれず、知らぬ間に法令違反となっていた…という事例も後を絶ちません。社労士は常に最新の法改正情報に精通しており、企業の実情に合わせて適切な制度整備をアドバイスできます。
第二のメリットは、“現場に合った制度設計”ができることです。ネット上の雛形をそのまま使った就業規則では、自社の業態や職場文化にそぐわないケースが多々あります。例えば、IT業界の柔軟な働き方、製造業の安全管理、サービス業のシフト対応など、業種によって制度に求められる内容はまったく異なります。社労士は現場のヒアリングを通じて、企業の文化や経営方針にマッチした、実践的で“使える”規則を提案します。
さらに、社内での制度の伝え方・活用方法までサポートできるのも、社労士の強みです。制度は作って終わりではなく、社員に正しく理解され、運用されてこそ意味があります。社労士は、説明会や資料作成の支援、管理職向けの研修なども含めて、トラブルを未然に防ぐ“伝え方”の部分まで丁寧にフォローします。
また、就業規則以外にも、労務相談や労使トラブルの対応、助成金活用のアドバイス、採用から退職までの手続き支援など、幅広い業務に対応しているのが社労士の特徴です。特に、中小企業の経営者や人事担当者にとって、労務の“かかりつけ医”として気軽に相談できる存在は非常に心強いはずです。
当事務所では、全国対応でのご相談を承っております。オンライン面談にも対応しており、地域や時間を問わず柔軟にサポート可能です。就業規則の見直しから日常の労務管理まで、「何から始めればいいかわからない」という状態でも、丁寧に伴走いたします。
まずは一度、お気軽にご相談ください。制度づくりを通じて、貴社の組織と人材の力を最大化するお手伝いをいたします。就業規則から、企業の未来を整える。それが、私たち社会保険労務士の使命です。
